N.O.生活2 - 音楽学部のこと

音楽学部は、大学内でも小さな学部でした。
ジャズ科だけだと、学年で10人くらいだったんじゃないかな。
ハリケーン以前はクラシック科もあったそうですが、そのときはジャズ科と音楽教育科しかありませんでした。
学部全体でも100人くらいでしょうか。

まあ恐ろしくアットホームでした。
いろんなことがルーズで適当。
その代り、誰もがフレンドリーで、いつも助け合っていました。
学部の建物を歩いていれば誰かに会うし、そこで聞けばたいがいの用事は済みます。
どの先生も教授も気さくすぎて、まったく学校っぽくありません。
学科ごとの垣根もなく、そこら中でみんな立ち話をしています。
日本の感覚からすると、小学校か幼稚園か!というくらいに規律がなく、なごやかすぎる雰囲気でしたね。


ジャズ科のほとんどは地元の生徒で、留学生は数人しかいません。
地元では有名ミュージシャンを多く排出していますが、けっして国際的に名前が知られた大学ではありませんからね。
アジア人はジャズ科にふたりだけ。
僕と、ひとつ上の学年に、韓国から来たドラマーがいました。
歳も近く、いろいろと相談に乗ってくれたし、のちに一緒にバンドも組みました。
彼は、抜群に上手いわけではありませんでしたが、努力家でしたね。
卒業後バークリーの大学院に入り、今はボストンに家族を呼び寄せて暮らしています。

地元の生徒達は、みんな子どもの頃から音楽をやってきています。
ニューオリンズは、そういう町ですからね。
得にドラマーはみんな上手いし、グルーヴがいい!
ピアノや管楽器にも、素晴らしいプレイヤーがたくさんいました。
大学に入った時点ですでに一流のスキルを持った者もいます。
彼らはもうハタチ前から、全米トップミュージシャンのバンドに入って、授業の合間にツアーに出たりしています。
日本の環境からすれば、恵まれた音楽環境に育った、エリートです。
そういうミュージシャンは日本には少ないし、いたら話題になってチヤホヤされることでしょう。
でも、アメリカでは別に珍しいことではありません。
アメリカのミュージシャンの層の厚さ、レベルの違いを実感しました。

教授陣もハイレベルでした。
日本まで名前の届くような、いわゆる有名ミュージシャンではありませんが、地元では尊敬を集めるすばらしいミュージシャンばかりです。
特にジャズ科を仕切っているEd Peterson。

エドは、僕が今まで生で聞いたサックス奏者の中で、圧倒的に飛び抜けてすごいプレイヤーです。
町の誰もが、彼の事をモンスター・プレイヤーと呼びます。
もともとシカゴのジャズシーンで活躍していた人で、今は演奏よりも教える方に時間を割いています。
とにかくすごい。
日本のミュージシャン達とは、まったくもってレベルが違う。
世界のトップレベルというのはこういうものか、と思いました。
今でも、演奏を思い出すだけでゾクゾクします。
エドがスケール練習してるのが廊下に聞こえてくるだけで、聞き惚れてしまう。
人としても、そして教師としても素晴らしい。
いつもハッピーで、やる気を起こさせてくれます。
これだけのミュージシャンの近くで学べるのは、とても幸運なことです。

他の教授陣も個性的で素晴らしいミュージシャンばかり。
学ぶ気のある学生はいつでも直接聞きに行けばいい。
めぐまれた環境です。

しかし、授業の内容やカリキュラムは、まあ適当でした。
そもそも、「音楽は教えられない」というのがポリシーですからね。
そのポリシーは分かるけど、でも学校としてどうなの?と思います。
そして、「音楽に点数はつけられない」ということで、普通にしてればたいがい成績はAです。

なので、やる気があればいくらでも学べるし、やる気がなければ何も学ばずいても卒業できる、という大学でした。

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