N.O. 生活 4 - ジャズ科の授業①

ジャズ科の授業は、インプロビゼーション(即興演奏)、バンド、各楽器の個人レッスン、となっていました。

「インプロビゼーション」というと、高度で実践的なスキルを扱いそうですが、実際はかなり適当なものでした。

特にテキストなどはなく、生徒が順番にプレゼンをします。
レコード(CD)のソロを譜面に起こし分析して、そこから3つのエクササイズを考えて発表します。
そして、元の音源に合わせてソロを再現して演奏します

1セメスターの間に、3つのソロをコピーします。
それぞれにお題があります。

ビ・パップ
自分の楽器
自分の楽器以外
ピアノ
ベース
コンテンポラリー・ジャズ
地元のミュージシャン
曲のコードとメロディ
自分自身のソロ

などがありました。

僕も、ソニー・スティット、バディ・デフランコ、キース・ジャレット、レッド・ミッチェル、など、授業でないとまず選ばないだろうミュージシャンをコピーしました。

エクササイズを考える、というのは、例えば練習に使えるフレーズなどです。
フレーズを特定のコード上で吹くとこのテンションが入る、みたいなやつとか。
あとはスケール練習に使えるリズムパターンを提案したり。

一回に1〜2人しか発表する時間がないので、授業はほぼそれだけに終始します。
それ以外には、たまに教授が選んだ曲を演奏したりディスカッションするくらいでした。
ごくたまに。


体系的・実践的なものではまったくありません。
学生の発表にはビミョーなものもあったし。
そもそもドラマーが多くて、ドラムのソロやエクササイズを提案されても、自分の演奏には直結しませんからね。

どんなソロを選んで演奏しても、教授は「イェー!」って盛り上げてくれて、和気あいあいと楽しくはありましたが、楽しいだけではねー。学校ですからねー。
現在の自分の演奏に生かされているものは、ほとんどないと思います。

でも、コピーの練習にはなりました。
特にベースラインをコピーするのは、意外に難しかったです。
低音がなかなか聞き取れないんですよ。
クラリネットの高い音域に慣れてるからでしょうか。

正直な感想として、あの授業を受けたからって、インプロビゼーションが上達するとは思えません。
僕はジャズのスキルを習得したくて留学したんじゃないからいいけど、素直にジャズを学びに来た学生にとっては、どうなんでしょうか。

けっきょく、やる気ある奴は自分で勉強してました。
学校の外へ出てどんどんライブをやったり飛び入りしたりして、授業に重きを置いてはいませんでした。


しかし3年生になると、インプロビゼーションを担当する先生が変わり、内容も実践的なものになりました。
先生はブライアン・シーガーというギタリストで、ボストンのバークリー音楽院の出身です。
バークリーは、ジャズをシステマチックに学べる場所として有名です。
よく、バークリー・メソッドとか言いますよね。
日本からジャズで留学する場合、8〜9割はバークリーに行くんじゃないでしょうか。

ブライアンの授業は、ちゃんと理論もやったし、講義・分析・実践という流れもあり、体系的に組んであります。
バークリーすごいな、と思いましたよ。
まあ、それがバークリー・メソッドと呼ばれるものなのかは分かりませんが、前年までの授業とは別物でした。


しかし、同じ大学の同じコースの中で、この落差。
あまりに統一性がなさすぎます。
おそらく、カリキュラム的なものは存在せず、授業の内容は先生に任されているんでしょう。
そもそも「音楽は教えるものではない」というのがジャズ科のポリシーですから。
だから、4年間いて何も学ばなくても卒業できます。
僕なんか、もともとモダンジャズやる気ないですから、それに近かったと思います。


授業はおおむね適当ですが、その代わり、町で教授や誰かが演奏しているところに、どんどん飛び入りできるし、バンドメンバーにむかえてくれたりします。

そういえば、ノース・テキサス大学のジャズ科(ノラ・ジョーンズの出身大学)に行った友人がいますが、町で演奏する機会はほとんどなかったそうです。
対極ですね。

どちらがいいかは分かりません。
向き不向きの問題かと思います。
僕のような、モダンジャズ志向ではない人間にとっては、あのルーズさは心地良いです。
自由に好きなことやってればいいんですからね。
「ジャイアント・ステップス」すら一度も演奏せずに卒業しましたよ。
「チェロキー」だって、授業で一回セッションしたくらいです。
それでAの成績で卒業できるジャズの学校なんて、他にあるでしょうか?


授業の他に、第一線のミュージシャンが頻繁にワークショップをしに来ます。
町にライブに来たついでに立ち寄るんですよ。
いろいろな考え方が聞けるし、生徒も積極的に質問するし、とても有意義でした。

僕はコンテンポラリージャズにはうとく、知らないミュージシャンばかりだったので、誰が来たか覚えていません。
ただ、だれもが口をそろえて言っていたことが二つあります。

まず、ロングトーンをしろ、と。
マイルスや誰々や、トップミュージシャンが話題にするのは音色のことばかり。
だから音色を磨け、と。
いろんな練習法があるなかで、効果が保証されてるのはロングトーンだけだ、とまで言う人もいました。
これは、基礎練習をサボる学生も多いので、あえて強調している部分もあるとは思いますが。

もう一つは、人間性について。
いいミュージシャンは、人間としても尊敬できる人ばかり。
だから、楽器ができればそれでいい、と思ってはいけない、と。
これは、ブライアンも授業で繰り返し言っていました。
個人的にも、とても共感できる考え方です。
まあこれも、学生に対する警告みたいな意味合いもあったと思います。
ジャズでもロックでも、ミュージシャン=不良・適当、みたいなイメージは、アメリカでも同じですからね。


インプロビゼーションの授業は、そんなところです。
とにかく、予想とはだいぶちがっていました。

コメント