クラリネットは鼻歌がいい 

ニューオリンズはクラリネットの町です。
数多くの素晴らしいクラリネット奏者を輩出してきました。
そして多くのクラリネット奏者が、3〜4人の小編成アルバムを残してします。
僕はそうした小編成ものが大好きです。

どれも共通した雰囲気があります。
地味で、味わい深い。
中庸のテンポで、熱くならず、終始リラックスしています。
そう、「リラックス」というのがポイントです。
まるで鼻歌のような。

普通のジャズの演奏とは違い、アドリブの応酬がメインではありません。
もちろんアドリブもありますが、それは、メロディーを優雅に崩してみせる、といった趣で、あくまでも曲が主役です。
歌えないフレーズは吹かない。


一番有名なのは、Louis Cottrelのアルバムでしょう。
Riverside Recordsが1960/1961年にニューオリンズで録音した、『Living Legend』 シリーズの中の一つです。
コットレルは、かなりアドリブを取ります。
でも、なんというか、淡々としてるんですよね。
アドリブに、ドラマ性や自己表出みたいなものがない。
上品で流麗で、ずっと聞いていられる。
かといってクラシックやイージーリスニングとも違って、躍動している。
ベテランの噺家のようなものかもしれません。
その話しぶりだけで、心地よくなれる。
味わい深い名盤です。


味と言えば、Paul Barnesのアルバム。
晩年の録音ということもあり、ミスや、危うい 瞬間もありますが、何とも言えない独特の雰囲気があるんですよね。
腕も衰えてもう「味」しか残っていない、という感じでしょうか。
泥臭すぎるリズムセクションの上に素朴なクラリネットが乗っている風情が、堪りません。


ヨーロッパのミュージシャンの録音にもいいものが多いです。
伝統的なニューオリンズジャズは、もはや時代遅れの音楽で、ニューオリンズでも廃れてしまっています。
しかし、ヨーロッパ(と日本)では人気があり、まだニューオリンズ・スタイルのバンドが残っているんです。 
Sammy Rimingtonも素晴らしいし、Chris Blountのバンド The Delta Fourなんか極上です。

僕の一番好きなクラリネット奏者は、ベルギーのRudy Balliuです。
彼の"Rudy Balliu Trio"は、憧れのアルバム。
3分くらいの曲が、全22曲。
とにかくいいメロディーを、リラックスした素朴な演奏で聞かせてくれる。
バンジョー(&ギター)とベースも素晴らしい。
誰ひとり、難しいことはやりません。
最低限必要な音しか出さない。
ルディ・バリウのアドリブは、とにかく素朴であったかい。
鼻歌どころか、もう喋るように吹きます。
まるで、アメリカ南部の昼間、ポーチで穏やかな会話を楽しんでいる様です。
いつかこんな音楽をやれたら、とずっと思っています。


クラリネットの小編成ものは、選曲にも特徴があります。
いわゆる「小唄」系の、美しいメロディーの曲がよく取り上げられます。
まあ昔のポピュラーソングですね。
アドリブの素材として選曲するわけではないので、コード進行より単にメロディが重視されるからだと思います。

Chris Burkeの"All I Do Is Dream"は、正にそんな作品です。
これはクリスがカナダのトロントのミュージシャンと録音したアルバムで、クラリネット、ベース、ピアノにトランペットも加わった4人編成です。
全18曲の半分以上は、ジャズでは誰も取り上げないようなポピュラーソングです。
オールディーズや、それこそフランク・シナトラが歌ったような曲ですね。
クリス・バークの朴訥としたクラリネットが人肌すぎます。


いい曲を、リラックスして雑念なく、鼻歌のように歌うだけ。
そんなクラリネットの演奏が理想です。
いつかそんな風な境地にたどり着けたらいいな、と思いながら、先人達の演奏を聴いています。


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