N.O.生活6 - 個人レッスン① Tom Fischer

授業のなかに、個人レッスンもあります。
クラリネットの先生は、トム・フィッシャー。
トラッド・ジャズ・シーンのトップ・プレイヤーで、何度も来日もしています。
N.O.大学を選んだのは、HPに彼の名前があったことも理由の一つです。

不思議だったんですよ。
ジャズ科というからには、もちろんモダン・ジャズを勉強するに決まってます。
でも、トムは僕の知る限りモダンはやらない。
それとも、じつは現地ではモダンジャズのライブもやってるのかな。

いざレッスンが始まってみると、トムはモダン・ジャズはやらないし、そもそもクラリネットを誰かに教えた経験すらほとんどないと言います。
トム自身も、学校でジャズを勉強したわけではありません。
若い頃たまたまニューオリンズに来たら楽器で稼げて、そのまま居ついた人です。
何をどうやって教えるか、ノープランでした。

トムは、天才型のプレイヤーです。
演奏自体は、いつも理路整然として美しく、スキがない。
でも、じつは理論的なことには弱く、すべて感覚で演奏しているんです。
レッスン中にトムが吹いたフレーズについて質問しても、「そう感じたから吹いた」みたいな回答です。
曲のコードも知りません。吹けるのに。
2人でピアノに向かって、一緒にコードを探ったりすることもありました。

そんな調子なので、音楽的にはほとんど得るものはありませんでした。
現地の音楽シーンのことや、過去のミュージシャンのリアルな話を聞いたりして、演奏とは関係ないことにレッスン時間を使っていました。


何度も書きますが、UNOジャズ科は、恐ろしくいい加減です。
個人レッスンについても、とりあえず地元のライブシーンで名のあるミュージシャンを連れてきて、あとは任せっきりです。
何を教えるかには一切関知しません。
でも本来、演奏することと教えることは、別なはずです。
むしろ、一流のミュージシャンが一流の教師であるケースの方が、めずらしいと思います。
トムがそうだったし、他の楽器でも、同じような不満を持った生徒は何人もいました。


トムはいい加減な人で、時間通りに来たことは一度もありませんでした。
ある時など、いくら待っても来ないから電話したら、なんとツアーで他の州にいたこともあります。
そして、毎回ヘタないいわけをして謝るんですよ。
なんとも憎めない人です。

ちなみに、トムの楽器はeBay(海外のオークションサイト)で数万円で買ったプラスチック製です。
以前は木管だったそうですが、あまり気にしてないようです。
いちおう、Connのヴィンテージ楽器ではあります。
割れないからとケニー・ダヴァーンに勧められたそうです。
ただ、ケニー・ダヴァーンはアリゾナ辺りのものすごい乾燥した地域に住んでいて、事情が違うと思うんですけどね。

人からもらったリードを平気で使い、種類もあまり気にしません。
マウスピースはごく普通のヴァンドレン5JBで、ずーっと使っているので変色しまくってます。


最高です。
ミュージシャンとして、人として。
音楽的には得るものは少なかったけど、個人レッスンは毎回楽しみにしていました。


※Tom Fischer の1stソロアルバム。
本人は全く気乗りせず、適当に録音したそうです。
というか、 Googleで検索してもマトモな本人の画像がほとんど出てこない。
ニューオリンズのトップ・プレイヤーなのに!

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