『あん』の樹木希林に宇宙を見た


飯田橋のギンレイホールで、『あん』を見ました。
2本立てで旧作を上映する、いわゆる「名画座」です。
もともと、橋口亮輔監督の『恋人たち』を見たくて行ったら、一緒にやってたのが『あん』でした。

ハンセン病の老婆とワケありのどら焼き屋店主の話。
映画自体も良かったんだけど、樹木希林が!とにかく素晴らしすぎました!
衝撃の演技でした。
今まで見た映画で、心に残ってる演技ってたくさんあります。
パッと出てくるものでも、『レイジングブル』のデニーロや『蜘蛛女のキス』のウイリアム・ハートや、最近見た中では『それでも夜は明ける』の主役の人もなかなか良かった。
でも、この映画の樹木希林は、今まで見た全ての映画のどんな役者のどんな演技とも最早レベルが違うとすら思うくらいに、もう何もかも超越してました。

本当に、樹木希林の出てくる全てのシーンでの全ての一挙手一投足に感動してしまう。
何もしてないのに、彼女が画面に居るだけで、意味のないような一言、それこそ相槌を打つだけでも涙が出そうになる。
こんな体験は生まれて初めてでした。
何なんだこれは。
役者っていうのは、こんなことができるのか。
すごい。
樹木希林に会いたい。
会って、お礼を言いたい。
ハグしたい。
いやーもうすごすぎて感動しすぎて言葉がないので、こんな文章になってます。
ちょっと調べたら、彼女のここでの演技はやはり素晴らしいもののようで、あちこちに絶賛しながらちゃんと説明してる文章がありました。
だから僕はこれでいいや。

ぜんぜん前情報なしに見たのも、良かったかもしれない。
なんと原作がドリアン助川だったことに驚きました。
僕、この人尊敬してます。
カルト深夜番組『金髪先生』や人生相談が有名ですが、僕は英語を勉強している時に彼の書いた英語本に出会い、非常に感銘を受けました。
発音の参考書なのに心が揺さぶられるという、ありえない本。
英語の勉強を、それ以上のものに昇華させてくれた忘れられない一冊です。
その後読んだ、明川哲也名義で書いた小説も面白かったし、考え方、生き様がかっこいい。
こんな本を書いてたなんて
いやーなんて偶然だろう。
嬉しいです。

そして、ハンセン病(らい病)
名前は聞いたことあるけど、よく知りませんでした。
こんなに酷い差別対象にされていた病気だったとは。
治療すれば治る病気で、まず感染もしないのに、外見に症状が出ることから誤解されてきた。
発覚したら隔離され、一生をその施設内で暮らさなければならず、遺伝すると決めつけられ、子供を作ることも許されない。
映画によると、墓を建てることも禁じられている。
なんと1996年まで、この日本で実際にそういう隔離する法律が存在していたそうです。
僕なんかたぶん、ごくごく普通の一般的平均的な層と比べたら色んな情報に触れる環境にいるだろうに、まったく知りませんでした。
そのくらい、知られていない、ということは、隠されてきたんでしょう。
恐ろしいことです。
わかりやすく書いた記事を見つけたので、リンクを貼っておきます。

でも、たぶん映画を見た方がわかる、というか心に残ります。
ハンセン病という題材からしても、見る価値あると思います。
一生社会から隔離されて歴史とのつながりも全て断たれて生きなくてはならない、ってものすごいことですよ。
それを演じる樹木希林。
彼女の、何気ない日常の風景や音や色や、そうしたものに対する繊細な視線を、共有できる。
生きてることが素晴らしい、とかいう、ありきたりな言葉が、実感として深く響いてくる。
いやー本当に樹木希林すごいわ。
宇宙を内包する演技。
お布施とかしたいし水でも壺でも買いたい。

樹木希林のことばっか書いちゃったけど、映画自体もすごく良かったですよ!
誠実に作られていて、長瀬正敏もいいし、とにかくいい映画でした。



そして、樹木希林のあまりのすごさに思わず触れずに終わるとこでしたが、『恋人たち』も良かった。
この監督の映画は、いいですね。
全体の出来・不出来とは別に、見ていてとても気持ちがいい。
っていうのは、見応えがある、っていうような意味です。
どのシーンもじわーっとしていて、ずっと見ていたい気になります。
この映画、題材も中身もいいし、それまで無名だったという俳優達がまたいい。
これはこれで書きたいこといっぱいあるけど、もうとにかく樹木希林に打ちのめされてしまって、申し訳ないけど、もう今日は書けませんすみません。

この2本立て、4/8(金)までやってます。
2本で1500円。
名画座然とした雰囲気もいいし、見終わって余韻のなか神楽坂の裏通りを歩くには、ちょうどぴったりの気候になってきましたしね。

おすすめです。




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