N.O.生活14 - Frenchmen Street

ニューオリンズといえば、バーボン・ストリート(Bourbon Street)。
観光の中心地フレンチ・クォーターを横切る通りで、両側にバーやレストランが立ち並び、夜中までライブ演奏が行われています。
とはいえ、そのほとんどは、全米各地から羽目を外しに集まった若い観光客向けのもので、ヒット曲をカバーするロックバンドや、爆音カラオケの店ばっかりです。
音楽を聴いて楽しむには向いていません。

ミュージシャンとしては、確かに稼ぎにはなります。

毎週レギュラーでバーボンストリートで演奏していれば、そこそこの実入りです。
店にもよるけど、週数回やってれば、なんとか暮らしていけるでしょう。
でも、音楽的には楽しい仕事ではありません。
あくまでも観光客向けの演奏であって、例えジャズであっても、とにかく大音量で早いテンポで派手に演奏することが求められます。
そうすると、ビールが売れるんですよ。
なので、バーボンストリートでの演奏は、割り切りが必要だと言われます。
ずっと毎晩そこでやってるミュージシャンもいますが、逆にあそこではやりたくない、という人もいます。


音楽的に本当にエキサイティングなのは、フレンチメン・ストリート(Frenchmen Street)です。

フレンチ・クォーターの少し先にある通りで、やはりバーが立ち並び、朝まで音楽が絶えません。
ここに来る観光客は、バーボンストリートの層とは違います。
騒げれば何でもいい、というのではなく、酒と一緒に音楽も楽しみたい、という人が多い。

だからミュージシャン側も、純粋に演奏を楽しむことができます。
バーボンストリートより実入りは落ちるので若いミュージシャンが多いことも、活気がある一因でしょう。
新しい音楽は、この通りで生まれています。
ここでミュージシャン同士が出会いバンドが結成されたり、一般客にはウケないだろう実験的なライブも行われています。
由緒あるジャズ・クラブ「スナッグ・ハーバー」もあります。
ブルース系のミュージシャンも多いですね。
有名ミュージシャンがニューオリンズに来て、でかい会場でライブを終えた後で立ち寄ることもありました。
僕の演奏してたバンドが、フラッと飲みに来た確かREM(違ったかもしれませんが、ベテランの人気ロックバンドでした)のブログに書かれたこともありました。
とにかく、エキサイティングな通りです。

だいたいの店は、夜早めと深夜と、2つの演奏枠があります。
中には、18時、22時、2時、と3つ枠があったり、昼間もバンドを入れてる所もありました。
同じ通りの中で、ひとつの店でのライブが終わったら数件先で別のバンドでまた演奏、ということも珍しくありません。

フレンチメン・ストリートに行けば、誰かがいます。
他でライブがあった後でも、とりあえずフレンチメンに寄ります。
そうして、道端で友達と話したりして、飛び入りで演奏したり、通り全体が、ミュージシャンの社交場のような感じなんです。
どの店もミュージシャンには良くしてくれて、一杯おごってくれることもある。
店の従業員や常連客も、みんな仲間なんです。

フレンチメンの店で演奏するのは楽しかったし、勉強になりました。
お客が、演奏を聞いて、ダイレクトに反応してくれるんですよね。
もちろん、バーですから、みんな飲んで話してます。
決してシリアスに耳を傾けてくれるんじゃないけど、その適度なリラックスした感じが、僕は好きでした。
ダンサーもよく遊びに来て、演奏に合わせて踊ってるのを見るのも楽しかったですね。

フレンチメン・ストリートは、昼間はのどかです。
飲んでいる人もいるけど、みんなのんびりしてる
そんな中に、飲んでいつでもほぼ正体不明の老人がいました。
ある日、彼がサックスを持ってバンドに飛び入りするところに居合わせました。
案の定ヨレヨレの演奏だったんですが、素人のようでもない。
一緒にいたミュージシャンが教えてくれました。
「ああ、彼は◯◯だよ。昔はすごかったんだけどねー。◯◯や◯◯(往年の全米ヒット曲)のサックスソロは彼が吹いてるんだぜ。」
驚きました。
僕もそのヒット曲は知っていたし、ニューオリンズ音楽の録音メンバーとしても名前に覚えがありました。
いまは、店から店へフラフラと飲み歩いて酒をおごってもらう日々。
まあ、もうかなりの歳でもありましたけどね。
そんな酔っ払いでも、みんな敬意を持って優しく接していました。


ニューオリンズでライブ演奏を楽しみたいなら、フレンチメン・ストリートに行くべきです。
エキサイティングでフレンドリー。
どの店も、雰囲気いいですよ。
ほとんどの店がチャージ無料です。
店に入ってみてバンドが良さそうなら一杯頼んでしばらく聞いて、演奏に満足したならチップを入れる。
ガイドブックには、夜はフレンチ・クォーターの外には行くな、と書いてあるようですが、それは嘘です。
危険はありません。
少なくとも、フレンチ・クォーターより極端に危ない、ということはない。
もし楽器を持っていれば、どこでも飛び入り歓迎ですよ。


と、これはもう4〜5年前の話ではありますが、ぼんやり入ってくる情報の限りでは、ぜんぜん変わってしまった、ということはなさそうです。

昼間はフレンチ・クウォーターを散歩して、ミシシッピ川沿いでボーッとして過ごし、夜はフレンチメン・ストリートを流す。
これが、おすすめのニューオリンズの楽しみ方です。

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