ブギウギの「コンサート」に行った

「BOOGIE for SPRING」と銘打った、斎藤圭土&ベン・ウォーターズのコンサートに行ってきました。

ベン・ウォータースは、イギリスのロック界で活躍する人気ピアニストで、チャーリー・ワッツとバンド組んだりしてる。
彼が日本に旅行で立ち寄ったついでに、交流のある斎藤圭土が急遽ライブを手配したそうです。

斎藤圭土は「ブギウギ・ピアニスト」の肩書きでレ・フレールというピアノ・デュオを組んでいて、国内クラシック部門でものすごく売れているそうです。
お客はたぶんみんな斎藤圭土目当てで、クラシック・ファン独特の雰囲気が漂います。
いちばん最後には客席から「ブラボー!」の声が飛びましたからね(クラシックのお客って、「ブラボー!」って言うんですよ。)。

この二人の演奏が対称的でした。
ベン・ウォータースは、「ブギウギ」という言葉のイメージ通りのピアニストです。
ガンガン叩くように弾いてピアノを揺らして、とにかくリズムがすごい。
茶目っ気たっぷりに歌ったり、イスの上に立って片足を上げたり、ジェリーリールイスばりのパフォーマンスで盛り上げます。
きっとどんな場所でもお客を躍らせてハッピーにすることができるでしょう。

斎藤圭土は、正反対です。
演奏は端正で「上手い」けど、グルーヴはゼロ。
うん、これはジャズやブルースのノリじゃなくて、クラシックです。
全部の音がきっちり正確に弾かれていて、強弱のつけかたや和音の響かせかたも、とても滑らかで美しい。
譜面こそ見てないし即興もやってたみたいですが、彼の演奏はぜんぶ譜面に書き起こすことができるでしょう。
パフォーマンスもいっさいなしで、服装も物腰もすごく上品です。
クラシック・ミュージックとしての、観賞用ブギウギ。
こんなのはじめて聞きました。

でもレパートリーは、ビッグ・メイシオやミード・ルクス・ルイスといった戦前ブルースの曲だったりして、それが僕には不思議です。
そうした昔のピアニストの演奏は、クラシックのマナーとは正反対の、ファンキーな演奏が売り物ですからね。
そもそもブギウギって、踊るための音楽だったわけだし。
斎藤圭土ファンがビッグ・メイシオを聴いたら、あまりの違いに驚くんじゃないか。
観賞用ということで、意識してグルーヴや雑味を取り去ってるんだろうか。
聴いてて体が動いちゃったら観賞できないわけだし。
それとも、僕を含めたブルースやルーツ系ミュージシャンと、クラシック出身のミュージシャンでは、耳や頭の仕組みが違うんだろうか。

斎藤圭土の場合がどうなのかはわからないけど、クラシックの世界からポピュラー音楽に来たミュージシャンって、リズムというかグルーヴがどうしても出ない人がいます。
けっこうたくさんいます。
せっかく何年もかけて練習して素晴らしいテクニックを身につけたのに、ノリが出せない。
出したくても出せない。

コントロールする癖がつきすぎてるんですよ、たぶん。
フォルテ(でかい音)という指示が譜面に書いてあれば、いつでも同じフォルテが自動的に再現できるように、体がもうそうなってる。
ミスや破綻がなく、予定外のことは起こらないから、聴いてて安心。
そのかわり、揺れもないからグルーヴは出ない。
ってことなんじゃないかと、ずっと思ってます。
ほら、絶対音感あると、ブルースみたいに音程を揺らす音楽は気持ち悪くて聴いていられない、って言うじゃないですか。
それみたいなことなんじゃないかと。

てなことを考えながら、イケメン・ピアニストに目をキラキラさせた周りの上品なレ・フレール・ファンの妙齢の女性たちの雰囲気に溶け込めず、僕は妙な気分でじっとおとなしくコンサートを聴いていました。

コメント