N.O.生活23 - 消えゆく伝統

Moonshiners の解散でレギュラーライブはなくなり、いつも違うバンドで演奏するようになりました。
とはいえ、中身はそれまでとほとんど変わりません。
古いジャズをやるミュージシャンは大勢いて、いろんな店でローテーションのようにして演奏しています。
曲や音楽スタイルも似ているし、そもそも誰も彼もみんな知り合いですからね。

そうして大勢と演奏するうちに、気づいたことがありました。
みんなニューオリンズ・ジャズの過去の録音を知らないんです。
例えば、ニューオリンズ・ジャズの復興に大きな役割を果たしたプリザベーション・ホール・バンドのレパートリーなんか、本当に誰も知らない。
なぜなら、みんなレコードやCDを買わないからです。
スイング・ジャズ曲の譜面集を手に入れて、観光客が知ってる有名曲を覚えて、おしまいなんです。
それでチップはもらえるから。

曲を取り上げるとき、過去の名演があればそれを踏まえて演奏するべきだと、僕は思うんです。
どう演奏するにせよ、その曲の歴史を知ってリスペクトすること。
そういうスタンスが、古いベテラン以外の、特に若いミュージシャンには全くない。
ライブで「ニューオリンズ・ジャズ」と看板をかかげていても、それを勉強する気がないんですよね。
お客に受ける有名曲をやってチップが入れば、満足してしまう。

あるとき、ステージで僕が "Yearning" をやろう、と言いました。
その曲を知っていたのは、ベテラン・ドラマーのジェラルド・フレンチだけ。
めったにやらない曲をなので、ジェラルドはきっと嬉しかったんでしょう、他のメンバーが誰も知らないのに、やろう!と言って叩きはじめてしまった。
仕方ないので、僕がみんなにコードを伝えながらメロディを吹いて、なんとか演奏した、ということもありました。

一緒に演奏していても、周りのメンバーと曲の背景やイメージを共有できないことが、僕にはストレスでした。
だって、僕はニューオリンズ音楽が好きで、聴いて聴いて、海を渡り、その音楽が生まれた地で愛する音楽を演奏している、はず。
それなのに、バンドの誰一人として、ニューオリンズ音楽をリスペクトしていない。
これなら、日本にいたときの方が、ニューオリンズ音楽への思いを共有しながら演奏できていた。
音楽が好きで来たのに、いまではチップを稼ぐのが目的になってる。
なんのために、ここへ来たんだろう。
と、思いながら、毎日ライブをしていました。


ニューオリンズ・ジャズが好きで渡米してくるミュージシャンは、もちろん今までも何人もいたわけです。
でも、いざ来てみると、実は町で演奏されている音楽は、ニューオリンズの伝統とはすでに別モノと化している。
みんな失望して、数年のうちに町から去っていく。
というのが、ここ10年以上のパターンだそうです。
その話を聞いたとき、とても悲しい、絶望のような気持ちになりました。

僕がいたときは、ハリケーンを境に若いミュージシャンが増えたこともあって、その傾向に拍車がかかっていました。
もう町では、ニューオリンズ音楽の伝統は過去のものとして消えかけていたんです。

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