音色を磨く

音色って不思議なものです。
譜面にも書きつけられないし、どうすればその音色になるのか、分からない。
たしかに、楽器やパーツの選択でも音色は変わります。
録音した音を機械にかけて、倍音やら色々な音成分を数値化することも、可能なのかもしれない。
それでも、こうすればこの音色が出る、っていう風にマニュアル化することは、できない。
だって、同じ楽器でも演奏者によって音色が違うんだから。
ピアノが、いい例です。
演奏者の体型や骨格も、きっと影響しているんですよ。
微妙な指の動きや、もしかしたら肌の具合や血液の濃度さえ関係しているかもしれない。
そのくらい、ミステリアスなものです。

あなたの声が好き、って、言う。
低い声が好き、高い声が好き、とかはあっても、その中でどうして「あなた」の声だけが特別なのか。
きっとそれは、声質だけではなくって、話すうちの表情や仕草やいろいろが一緒くたになって、その人の中身が透けて感じられるようなことだと、思います。
たとえ全くおんなじ声の人がいても、その全員が「あなた」になれるわけじゃない。

楽器の音色も、そういうものです。
実は、音だけで形作られるものではない。
無意識のうちの強弱や間の取り方や、いろんな要素が一緒くたになって出来ている。
それは身体と直結した、たぶんクセや性格のようなものまで関係した、とってもパーソナルなもの。
演奏には人柄が出る、って言うけれど、それがいちばん顕著なのが音色であって、演奏者自身のいろんなことが詰まっているんだと思うんです。

だから、音色がいいねって言われるのは、あなたのことが好きっていう、おおげさにいえば自分が全肯定されるようなこと。
上手いねとかフレーズがいいねとか、具体的なことをほめられるのとは、違う。
いや、好かれなくてもいいんですよ。
「あなたの音色」と認識してもらえたら、それだけで嬉しい。
少なくとも、自分の中のいろんなものが、ちゃんと音色に出てるということだから。
ただの音符の組み合わせとは違う。
演奏することで、自分自身を表現することができている。


そんな風に考えて、音色を磨いています。

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